まだアラバスタ。――5施設目、須恵という航路
- Ume
- 2 日前
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更新日:23 時間前

明日、9月1日。
いよいよ、有料老人ホーム「あったかいご須恵」が新規開設となる。
起業して8年目。須恵で、あったかいごの有料老人ホームは5施設目となった。
5施設。
こうやって数字だけ書くと、なんとなく順調そうに見える。
最近ではありがたいことに、
「勢いありますね」
「また新しい施設ですか」
などと言っていただくことも増えた。
しかし、当然ながら最初からこんな感じだったわけではない。
むしろ最初の頃は、
「この人、本当に大丈夫かな」
という目で見られていた時間の方が、圧倒的に長かったような気がする。
まあ、当時の私を振り返ると、その評価については完全な誤解とも言い切れない。
さて、創業施設である大野城を開設して間もない頃から、私は一つの目標を持っていた。
「15施設をつくる」
という目標である。
なぜ15なのか。
ここに壮大な経営理論でもあれば格好いいのだが、当時の私は単純に、
「そこまで行きたい」
と思っていた。
それはもう、ルフィが幼い頃から「海賊王になる」と決めていたのと同じくらい、かなり純度の高い野望だった。
ただし、問題が一つあった。
その頃のあったかいごには、まだ2施設程度しかなかったのである。
2施設しかない会社の社長が、
「15施設開設が目標です」
などと言い始める。
まさに、まだ仲間もろくに揃っていない頃のルフィが、
「俺は、海賊王になる!!」
と宣言しているようなものである。
ワンピースでは、最初こそ疑っていたゾロやナミ、ウソップも、
ルフィの、まっすぐな人柄や、その特殊能力と強さ、
何よりも、彼の決して折れない信念を見て
すぐに彼に何かを見い出し、彼の夢についていくのだが…。
一方、当時の私はというと、
ルフィのような特殊能力も勿論なく、
目立つのは、せいぜい人より早く伸びる髭くらい。
役職経験もない。
介護職員とケアマネを少しかじった程度。
何か大きな実績があるわけでもない。
強力な後ろ盾があるわけでもない。
要するに、
ただの人だった。
「この人なら、きっと何かやってくれる……✨」
などと秘めたる力を感じ取り、黙ってついてきてくれる職員が続々現れるような、少年漫画的展開は当然起きなかった。
職員に「15施設開設」という夢を話せば、若干眉をひそめられ、
外部の方に話せば、
「夢があるのはいいことですね」
「応援しています」
と、優しく声をかけていただいた。
ただ、その「応援しています」という言葉の裏に、
「まあ、無謀な夢を語るのは自由だ」
という意味が見え隠れしていたのは、さすがの私でも分かっていた。
だから私自身も、
「15施設つくります!」
と、大きな声ではなかなか言えなかった。
職員の前ですら、
「……まあ、最終的には……15施設くらい……」
と、若干声量を落としていた。
夢を語っているというより、
何か後ろめたいことを告白している人の声量だった。
経営者なのに、自社の目標を小声で言っていたのである。
あれから、まだ3年ほどしか経っていない。
だが、この3年間で会社は随分変わった。
何より変わったと感じるのは、管理職たちである。
当時、新しい施設を出す話をすると、
「人は足りるんですか」
「また増やすんですか」
「今の施設も大変ですよ」
という反応も少なくなかった。
もちろん、それは間違った意見ではない。
現場を預かる人間として考えれば、むしろ至極まともな反応である。
当時は、私が前を向いて走ろうとすると、
後ろでは管理職たちが、
「……本当に行くんですか?」
という顔をしている。
そんな時期もあった。
船長だけが行き先を決めていて、乗組員はまだ若干下船を検討している。
そんな船だったのかもしれない。
ところが、今は違う。
「どうしたらもっと早く目標を達成できるのか」
「もっと効率よく、効果的に仕事をするにはどうすればいいのか」
「次の施設では、今回の経験をどう生かすのか」
そんな話を、管理職たちの方からするようになった。
いつの間にか、
「社長が勝手に言っている15施設」から、 「自分たちも一緒に目指す15施設」へ変わっていた。
これは、私にとって本当に大きな変化である。
私にもようやく、
進むべき航路を一緒に見てくれる、
ゾロやナミ、ウソップやサンジ、チョッパーのような、
心強い仲間ができたのである。
もっとも、
誰がゾロで、誰がナミなのか、サンジは誰なのか、を社内で決め始めると、間違いなく揉めるので、そこについては永久に未定としておきたい。
施設が一つ増えることも、もちろん嬉しい。
だが、会社として見れば、こちらの方がもっと大きな成長なのかもしれない。
経営者一人だけが夢を語っている会社は、意外と弱い。
社長が毎朝、
「行くぞー!」
と言って、
職員が、
「……お、おう」
となっている状態では、なかなか遠くまでは航海できない。
組織が本当に強くなっていくのは、社長が言わなくても、
「次はどうする?」
「もっと良くするには?」
という会話が、組織の中から自然に出てくるようになったときなのだと思う。
そして今回、あったかいご須恵に集まったメンバーとも、この1か月、一緒に仕事をしてきた。
率直に言って、
本当に頼もしい。
新しい施設というのは、建物が完成したら終わりではない。
むしろ、そこからが始まりである。
新しい場所に、
新しい職員が集まり、
新しいご利用者を迎え、
そこから一つの施設の文化をつくっていく。
開設前の1か月、須恵のメンバーと一緒に働きながら、
この人たちなら大丈夫だ。
そう思える場面が何度もあった。
そして、明日9月1日。
「あったかいご須恵」がスタートする。
5施設目。
目標の15施設までは、あと10施設。
こう書いてみると、
まだ3分の1である。
ワンピースでいえば、
「だいぶ冒険したな」と思っていたのに、まだアラバスタ。
クロコダイルと戦って達成感に浸っている場合ではない。
海は、まだ広い。
道のりは、果てしない。
昔の私なら、残り10施設という数字を見て、
また少し声を潜めていたかもしれない。
だが、今は普通に言える。
あったかいごは、15施設を目指している。
そして私は、本当に実現できると思っている。
別に急に私の胆力が増したわけではない。
筋肉については増えたが、胆力と筋力の因果関係については、今のところ確認されていない。
そうではなく、
一緒にその場所を目指してくれる人たちが増えたからである。
昔は、一人で見ていた景色だった。
今は、同じ方向を見てくれる仲間がいる。
それなら、夢ももう少し大きな声で語ってもいいじゃないか。
明日から始まる、あったかいご須恵。
5施設目は、ゴールではない。
15施設という目的地へ向かう、航路の途中である。
もちろん、数を増やせばいいわけではない。
まずは目の前のご利用者一人ひとりに向き合い、
ここで働く職員が力を発揮できる施設をつくる。
一施設、一施設、ちゃんと良い施設をつくる。
その積み重ねの先に、
6施設目があり、
7施設目があり、
そして、いつか15施設目がある。
昔は、職員の前ですら小声でしか言えなかった、
「15施設をつくる」
という夢。
その夢がいつか本当に現実になったとき、
私にとっての
「ひとつなぎの大秘宝」
を見つけたと言っていいのかもしれない。
まあ、
海賊王はルフィに任せる。
私は、まず、この仲間たちと15施設まで航海する。 明日、9月1日。
その航路の5つ目となる、
あったかいご須恵、出航です。



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